大判例

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鹿児島地方裁判所 昭和29年(行モ)1号 決定

申請人 保直次 外一名

被申請人 鹿児島県知事

一、主  文

申請人等の申立を却下する。

申立費用は、申請人等の負担とする。

二、理  由

申請人等代理人は、「被申請人の申請人等所有の別紙目録記載の建築物についての違反是正命令の戒告に基く代執行は、当事者間の行政代執行処分取消事件の判決確定に至るまでこれを停止する。」との決定を求め、その申請理由として主張する要旨は、申請人等は、昭和二十八年四月八日の火災によつて建物を焼失したので、その焼跡に別紙目録記載の建築物(以下本件建築物と略称する)を建てるため、昭和二十八年五月十日頃鹿児島県建築主事から建築許可並びに建築物確認通知を受けたうえで、同月二十日から工事に着手し、同年七月一日完了したので建築主事の検査を受け、その使用の承認を得て同月十二日から従業員八十五名を雇傭し、本件建築物で飲食店の営業を開始し、八月一日には鹿児島県から遊興飲食税非課税場所として指定を受け、昭和二十八年度の遊興飲食税百三十四万四千百六十円の内金三十八万二千二十八円を支払つて現在まで営業をつゞけてきた。

ところで本件建築物の隣接地には、申請外前田雄太郎、茂岡直則、河野タカ、山田盛隆等が、前記の火災による焼跡にそれぞれ建築許可及び確認通知を得て建築物を建築し、いずれもその工事を完了していたが、申請人等及び前記四名の各建築物が建築基準法に違反するから右各建築施行主に対してその全部を建築基準法第八十六条による綜合設計の建築物として再確認を受けるように鹿児島県建築主事田中彌一から指示され、この方法によれば右の違反は是正される旨表示されたので、右六名は同年十月二十日頃新たに綜合設計による建築物の許可申請をし同月二十六日これが許可を得、更に同月二十九日に建築主事の確認通知を得たものである。

しかるに、被申請人は昭和二十八年十二月二十六日に至り突然鹿児島県達第三九号の九及び十、違反是正命令により、申請人等に対して、本件建築物は都市計画法による準防火地域指定の地域内の建築物であり、延面積五百平方米を超えるものは主要構造部は耐火構造としなければならないのにかかわらず、何等法定の除外事由なく、申請人両名の各建物を接続して延面積八二三、一六七平方米とし、建築基準法第六十二条に違反しているから同法第九条により、昭和二十九年二月二十八日までに右各建物を切断して別棟とすべきことを命令し、次いで昭和二十九年三月一日に行政代執行法第三条により申請人両名に対し同月七日までに右違反を是正することを命じこの期限内に義務を履行しないときは、被申請人がこれを執行し又は第三者にこれを執行させその費用を徴収する旨の戒告をした。しかしながら、被申請人は、建築基準法第六条、第七条、第九条により建築物の工事が完成して使用を開始した後に違反是正の措置をとり、建築施行主に不測の損害を蒙らせるような事態を発生させないため、建築施行中に随時任意に工事の臨検等を行い、これが違反事態あるときは、その是正のために適当な措置をとる等その予防手段をとるべき法律上の義務があるにもかかわらず、これを怠り工事完了して使用を承認した後に、申請人等に対して、前記綜合設計による確認申請手続をさせて、これが確認通知をしながら、今更法第六十二条違反として行政代執行をすることは、明らかに違法であるというべきである。そこで申請人等は右是正命令による代執行処分取消の訴を鹿児島地方裁判所に提起して目下繋属中であるが、右戒告による代執行が強行されるときは、申請人等は本件建築に金二千二百万円を支出し、その負債約千六百万円を有している外手形債務等約千二百万円あり、又県税未払分二百万円等の債務を負うているがこれ等が全く支払不能となり営業の継続もまた不能となり、従業員八十五名に対する給料支払いすらもできないことゝなり著しい損害を蒙ることゝなり、申請人等の事業が致命的打撃を受けるばかりでなく、従業員八十五名は失業の危険にさらされ、正に償うことのできない損害を受ける緊急の事態を生ずる虞れがある。よつてかゝる状態の発生を避けるため、右違反是正命令の戒告に基く代執行は、本案判決確定に至るまで停止することを命ぜられ度いというにある。

そこで当裁判所は、被申請人の意見と当事者双方の提出した全疎明資料とを綜合してこれが当否を判断するに、本件建築物が、建築基準法第六十二条に違反していることは、申請人等の申請理由に徴し明らかであり、被申請人は、本件建築の施行中に、右違反を発見し、これを理由として建築主事或は建築課係員をして、再三に亘り両建物を切断して別棟として工事を進行させるよう口頭を以て指示させ、申請人等はこれを諒とし、その指示に遵い違反を是正して建築を行う旨を確約していたにもかかわらずこれを履行せず、敢えて違反建築を進行させていたので、違反是正命令を発してこれが是正を命ずる旨表示したところ、昭和二十八年九月六日、申請人保直次名義を以て、同年十月三十日までに、申請人福島名義の建築物と接続した部分は切離して別棟とする旨の請書を提出したので、強制措置をとることなく申請人等の任意の違反是正に委ねていたものであるが、その期限を経過しても何等是正の措置をとらず放置していたゝめ、本件建築物の所在地一帯の事情、申請人等の営業内容等を綜合勘案して、本件是正命令を発し、更に申請人等の作為義務不履行を理由として行政代執行の戒告をするに至つたものであることが疎明され、申請人等の右違反が綜合設計による確認通知をうけたことにより是正されたとの点、並びに本件建築物の使用承認を得たとの点については何等疎明されない。

ところで建築基準法第九条による違反建築物に対する是正の措置は、これを何時如何なるときに発令するかは一に特定行政庁の裁量に属するところであり、国民の生命健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする同法の精神に則り随時これを命じ得るものと解すべきであり、違反建築物を発見したときは、直ちに右法条による強制措置をとるべきことを必ずしも必要とするものでないことは勿論であつて、任意に口頭又は書面等適当の方法によりこれが違反を是正すべきを指示しようようしてもつて徒らに公権力を行使して国民の財産権の不当な干渉侵害にわたることを避けることこそ最も行政目的に合致する妥当の手段といわなければならない。

さすれば本件において、被申請人が、申請人等の建築工事施行中にその違反事実を発見し、これを建築施行主たる申請人等の任意の是正に期待し、再三にわたる口頭の指示を行つたにとゞまり、直ちに強制措置による是正手続を講じなかつたからといつて、これのみをもつて、同法による義務違背として違法視する理由とはなり得ないので、結局申請人等の本件申立は、その本案の請求権の存在について何等の疎明もないことに帰し、これが存在を前提としてのみ許容し得る行政処分執行停止申立は、爾余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかであるから、却下されるべきである。

よつて申請人等の本件申立は失当としてこれを却下し、申立費用につき、民事訴訟法第九十五条本文第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 森田直記 溝口節夫 滝田薫)

(別紙目録省略)

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